肉不足

肉不足で食糧危機が真剣に迫られているころのこと、

私は友だちと世界で唯一の肉生産工場に勤めていた。

肉は高値で売り買いされ、あまりの少なさにみんなにちゃんと平等に配られるように

国家で義務づけられていた。

ある日ふと、友だちが、肉のかたまりをビニー袋に入れて持ち去るのを見た。

私は慌てて駆け寄り、出口のすぐ近くでその子の腕を握って捕まえた。

「ダメだよ」

「うるさいなぁ、いっちゃん(私のこと)に関係ないでしょ!?」

その子はぐいぐいとすごい力で出ていこうとする。

反面私は事の重大さに掌に汗をかいて滑りやすくなっている。

つるつると逃げていくその子の腕を何遍も掴みなおしながら

私は必死で止めた。すると、工場に赤いランプがついた。

肉の持ち逃げが発覚したのだ。「警察が来るまでこの子を捕まえておけば・・・」

そう思っていっそう力強くその子の腕を引いた。

隣に他の友だちが来たので、「あ、B子ちゃん、この子を止めて!」と叫んだ。

B子ちゃんはものすごくイヤそうな顔をして、Aの頭にちょっと掌で触れると

「此で良いでしょ?」と言った。「うん、うん、いいよ」私は誰にも頼れない、と思って、

掴む掌に力を込めた。工場があわただしくなっていく。

逃げられないと悟ったのか、Aが肉の入ったビニー袋を、私の腕にかけた。

「これじゃあ、貴方が肉を盗んだと思われるよ」B子が言った。

「いい、ちゃんと真実を話すから。」私はかすれた声で生唾を飲み込んで言った。

Aはニヤニヤと笑ってこちらを見ている。もう逃げる気はなさそうだ。

警察が来た。数人来た。

一番偉そうな刑事がオレンジ色のトレンチコートを着て、

本当に何でもなさそうに一番最初に出口から入ってきた。

あとから数人、警察が来る。こっちは普通の制服だ。

私とAは同時に喋りだした。「この人が肉を取っていって犯人なんです」

オレンジが私の腕に肉がかかっていて私がAを止めているのを見ると、

「ムムッどっちが犯人なんだ」と言った。

***暗転***

私は追われていた。私が肉泥棒だと、マスコミは大げさにかき立てた。

私は追われながらAを追っていた。

ビルと川の間の草原でAと鬼ごっこをした。

私は運動神経が鈍く、Aはすばしっこかった。

「Aは軽いフットワークで逃げ続けるのだった」誰かがアナウンスしていた。

草原には電信柱と灰色の岩があった。

岩の影から挑発するAを私は右、左と小刻みに動いて翻弄した。

すると、ビルの合間からCが来て、魚の目をしたまま

「見つけた!!いっちゃん、見つけた!!」と迫ってきた。

私の追っ手である。

私はAが此幸いと逃げだそうとするのを目の端でとらえ、

Cを無視してAに飛びかかった。

Aを捕まえた。

***暗転***

刑事に連行された。Aと私。

警察ではなく、綺麗なホテルのある一室-吹き抜けのホール-で取り調べがおこなわれた。

「どっちが犯人か解らないなぁ」

オレンジが言った。

「テストをしようか、今からこの肉を

-と言って机におかれた、Aが取った肉のビニー袋を指す。

証拠品として没収されたのだ-

食料!と言って指すから、飛びついた方が犯人ね」

「食料!!」

私はバッと手をふくらはぎに押しつけるように引っ込めた。

Aは椅子から乗り出して、肉の袋を触ろうとした。

「あーあ」刑事はニヤニヤ笑った。「そんじゃ、もう一回」

『食料と言ったら手を引っ込める、食料と言ったら手を引っ込める』

私は頭の中で何遍も繰り返した。

「肉!!」刑事が叫んだ。

Aがバッと乗り出す。私は手を引っ込める。

「いっちゃーん、なにしてんの?肉って言われたら手を出すんだよぉ?」

Aがニヤニヤして言った。刑事も笑ってる。

『そうだったのか』焦りながら私は汗をかいた。

これで1対1になった。

「よし、次で決めよう」刑事が納得したように言った。

「このテストで決めるんですか?」こんな重大なことを。私は思った。

刑事が信じられなかった。「そうですよ」無表情に刑事は言った。

私とA、二人は刑事の指示で机の上に手をおいた。

「肉は引っ込める、食料、は出す」間違った呪文を唱えながら私はそのときを待った。

喉がからからした。

「食料!!」刑事が叫んだ!

二人とも、手を引っ込めた。出さなかった。

「うーん・・・」刑事はちょっと考えたあと、

「Aが犯人!!」と言ってAの腕に手錠をかけた。

「ナンで!!?」焦るA。

「何となく」刑事は笑っていった。

そしてAが逮捕された。

部屋を出るとわっとマスコミが群がってきた。

私が犯人だとかき立てた彼らにしてみればこのことは大事件なのだ。

私は冷たい目で彼らを見渡すと、

「今日は疲れているのであなた方の相手は出来ません」と言った。

無性にシャワーが浴びたかった。