マネキンと私

始まりは修学旅行だった。

それだけは覚えているのだが、

何故か気がついたら私は人を殺していた。

もんぺのおじさんが胸を刺されてぐったりと白目をむいていた。

私の手に握られた包丁は

ぽたぽたと滴を垂らしている。

血の滴だ。

うわうわうわ、どうしよう

とりあえずおじさんをお風呂に入れて

血を洗い流すことにした。

何故かは判らないがそうしなければいけないような気がした。

外は嵐のようで風呂場の窓から轟々と暗い風が吹いているのが見える。

風呂には先客が居た。

首を絞められて死んでいる真っ裸のきれいなおねいさんだ。

これも私が殺したのか?

記憶を探ってもナンにも判らない。

微かに「おじさんが殺した」ような気がするだけだ。

とりあえず風呂にはおねいさんが入っているので

洗い場でおじさんを寝かせる。

おじさんの体を洗おうとすると

ドン!ドンドン!!

と激しく風呂場の窓を叩く人がいる。

見るとはげの女のマネキンが、首を真上に揺すって

あり得ない格好で踊るように激しく窓を叩いていた。

激しく吹きすさぶ風のせいか

マネキンの首はカックンカックン揺れて今にもとれそうだ。

何故か私は拳銃を持っていたので

バンバンとマネキンを撃った。

ガラスがガシャンガシャンと割れて何発かの玉がマネキンにあたった。

しかしマネキンはふらふらと遠のくだけで

おじさんを洗おうとすると戻ってきて

ドンッドン!!と窓を叩く。

割れたガラスは何故かもとに戻っていた。「判ったよ、これが欲しいんだろ!!」と叫んで

おじさんをマネキンに向かって投げた。

カシャーンと大きな穴を作っておじさんはマネキンに体当たりをした。

マネキンは嬉しそうにおじさんを抱えて

暗い闇の中に去っていった。

人を殺してしまったのでもうここにいられないので

此処から逃げることにした。

いつの間にか朝になっていて嵐は収まっていた。

外にでて家の前で手を挙げるとバスがキキィと目の前で止まった。

乗り込むと数人の見知った顔がチラホラしている。

そういえば修学旅行だったのでこれはきっと送り迎えのバスなのだろう。

みんな何故かぐったりしていた。

他の人は?と先生が聞くと

「死にました」と誰かが言った。

そう、と先生が言ってバスが発車した。

バスは大きな川の横を走っていった。

川は流れているが、緩やかで、淀みの方が多かった。

所々に泥の固まりのような島がグニャンと積み重なっていた。

バスは前に見える山に向かっているようだった。

川もそこから流れていた。

「、、、先生、あれ何」

バスが走って暫くすると小声で誰かが聞いた。

「、、、マネキンだ」

泥の山に、泥の中に、

恐ろしいほどの数のマネキンが突き刺さっていた。

よく見ると、川にも緩やかだが大量に、マネキンが流れている。

全て裸でハゲで女のマネキンだった。

みんな唖然としてその光景に見入った。

「あ、」

と思わず声が出てしまって口を手で押さえた。

川が歪み、とぎれ池のようになっているところに

おじさんが居た。

数体のマネキンにまあるく取り囲まれユラユラと浮いている。

他のマネキンは全て悲哀の表情を浮かべているのに

そこにいるマネキン達は何故か至福の表情を浮かべていた。

そのとき何故か此処にいるマネキンは全てマネキンなんかじゃなく

生きていた人間なのだと思った。

そしてこの事態は全ておじさんのせいなのだと思った。

おじさんの胸から血が、花のように美しく揺らめいていた。

山のてっぺんの駅に着くと、そこはサウナだった。

ぐったりとした人間が一杯熱さの中で汗を流していた。

入り口の横に細い窓があって

駅だった証拠にそこに、ロープウェイがあったが

そのロープはぶちきれ、

車体がグシャリとつぶれていた。

みんなは慌てた、これはどう言うことだと誰かが小声で叫んだ。

ざわざわとしていたが、誰もその理由を知ることは出来なかった。

サウナの番をしているらしいお爺さんが

「この村からでることはまかりならんよ、

そういうおきてなんだ。

みんなマネキンになっちまうだ。

マネキンにな。」

みんなは恐ろしさにひぃひぃと泣いた。

私はサウナのその窓の横に座っている女の子に

「これは本当なの?」と聞いた。

「、、、頭をつけて、誰にも言えないから、抜け出す方法を教えてあげる。

だれにも知られちゃいけないから、

+*@;:

(テレパスのことか知らないが、

よく解らない言語で彼女はある単語を言った。)で、教えてあげる」

彼女の額に額をつけると

あるイメージが私の脳に流れ込んできた。

それは抽象的でモヤモヤとしたオレンジ色の霧のような物だった。

それでも私は此処から抜け出す術を知った。

壊れたロープウエィの窓の横に

人一人立つのがやっとの小さな長細い窓があって

そこに一本の拙いロープがぶら下がってあった。

手をかけるように丸くいわかれている。私はそこに手をかけ、しっかりと握ると

「よく見ろー!!これが生きる道だぁ!!」と叫んで

がっと、窓をけった。

ターザンよろしく私はシャーーーーーッとロープで滑っていった。

風がごうごうと顔に当たって息もするのも難しい。

私は目を瞑り、運命に全てを任せた。

次に目を開けたときは現実だった。